個人投資家ユーザーとどう向き合うか

2009年7月2日

個人投資家の動きが活発だ。オンライン証券会社の新規口座開設数は増加を続け、とりわけリーマン・ショック後の2008年10月~12月付近の口座開設数伸び率は目を見張る。また、2009年6月19日に東京証券取引所が発表した『平成20年度株式分布状況調査の調査結果について』を読むと、個人の株式保有比率(金額ベース)が上昇し、4年ぶりに20%の大台に乗せたことがわかる。個人株主・投資家の存在感が徐々に大きくなっているようだ。

1. 単なるリンク集では意味がない

「個人投資家の皆様へ」にアクセスすると、多数のハイパーリンク「だけ」が並んでいるページに出くわすことがある。いわゆる「振り分け型」個人投資家ページだ。これはIRサイト内の多数の情報から個人投資家に有用な情報を選別してリンクを配置し、それら情報への誘導を目的としたポータル的な役割を担うページのことである。

これはこれで有用だとは思うのだが、この種のサイトに限ってリンク先にある肝心の(IRサイト本体の)コンテンツが貧相であることが多い。紋切型の情報がぶっきらぼうに置かれていることもあれば、単なるPDF倉庫に誘導されることもある。本当に個人投資家に有益と言えるのか。これではユーザーの期待は失望に変わってしまう。「なんだ、単なるリンク集か…」と思われては元も子もない。

2. 事業内容、強みや特徴を伝える

言うまでもないが、何をしている企業なのかを知ることなくして決算短信や決算説明会資料などのIR資料を読み解くことは難しいし、事業や会社の将来性を考えることなくして投資はできない。しかし、逆に、ここにこそ個人投資家向け情報の意義が垣間見える。

最近は「振り分け型」個人投資家ページに代わって「自己紹介型」個人投資家ページが増えている。自己紹介型。つまり、ウェブという空間ではじめて対面するユーザーに対して「何をしている会社か?」「何を目指しているのか?」など、企業を理解し、投資のきっかけをつくる情報を特定ターゲットたる個人投資家やはじめて訪れるユーザー向けに編集して、簡潔にまとめたサイトのことだ。

近頃はFlashや動画等を使ってダイナミックに情報を伝えるコンテンツもあり、年を追うごとに表現力が豊かになる傾向にある。

3. IR資料やIRサイトへの橋渡し役

企業のことがわかれば、難解な(?)決算短信や各種説明会資料も少しは読みやすくなる。要点をかいつまんだ自己紹介などのわかりやすい情報が、各種IR資料を読みこなすための橋渡しとなってくれるだろう(そうでなくてはあまり意味がないわけだが)。

情報を探す手間を省く情報構造。全体像から詳細へという段階的な情報開示。個人投資家ページは情報の探索と理解の両面において、IR資料やIR(本)サイトへの橋渡し役という重責を担っている。

4. 株主還元に対する関心は高い

とうぜん、株主還元に対する関心も高い。過去の配当実績など、具体的な成果を示しつつ、株主還元に対する考え方を伝えることで、株式を保有することによるメリットやリターンのイメージを伝えたい。株主優待を行っている企業であれば、それも合わせて伝えたい(逆に株主優待を実施しない企業であっても、実施しない理由を開示するサイトもある)。

長期投資家の育成や株主数の確保、あるいは機関投資家などの特定層だけでは一方向に振れがちな株価の動きを融和するためにも、個人株主の獲得は有効だ。そのためにIRサイトができることは、前提知識の少ないユーザーに対しても企業の正確な姿を伝え、企業の理念や事業、方向性を理解してもらい、そして、さまざまなIR情報を見てもらうことである。

明確なコーポレートストーリーとそれに基づいたIR情報の的確な編集がIRサイトをわかりやすくする。IR担当者の情報の「編集力」と、企業の正しい姿を伝えたいという「熱意」が個人投資家向けページを含めたIRサイト全体の出来不出来を左右すると言っても過言ではあるまい。

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