IRランキング2008の考え方

2008年4月1日

2008年4月1日、ゴメス・コンサルティングは「IRサイトランキング2008」を発表した。本稿では、「IRサイトランキング2008」のスピンオフ企画である「IRレポート」の刊行に先立ち、ゴメスIRサイト調査の基本理念と考え方の部分を整理してみたい。2008年版のキーワードは「IR情報洪水時代」と「フェア・ディスクローズ」だ。

IR情報洪水時代

決算短信と四半期概況、有価証券報告書と半期報告書、営業報告書、ファクトブック・・・。各種説明会やイベントも積極的に推進する企業も多くなり、投資家向けに開示される情報は、年々増加の一途を辿っている。IRサイトに掲載される情報も、これに比例して増えている。2008年度からは、J-SOXによる内部統制報告書が加わる。さらに、適時開示書類の財務諸表部分はXBRLでの提出が義務付けられる。情報「量」は増え、内容は高度化し、さまざまなWeb技術を駆使したコンテンツも出現している。とにかくIR情報は増える一方だ。

ところで、これほどのIR情報を、ユーザーである投資家は消化しきれているのだろうか。IRサイトの情報量は、すでにユーザーの情報処理能力を遥かに超えるほどに膨張しているのではないだろうか。あたかも洪水のように押し寄せる情報の波に翻弄されているのではないだろうか。

情報の洪水からユーザーを助けよう

IRサイト上で投資家を情報の洪水から守るためには大まかに2つの手段があると考える。

ひとつの手段は、「水路」を整備し、情報の流れを整理することで、洪水を防止することだ。ナビゲーションやページ区分、情報構造を工夫することで、情報を見やすくしたり、探しやすくしたりする。つまり、IRサイトのユーザビリティを改善することで、たくさんの情報の中から目的のものを見つけやすくすることである。

もうひとつは、不慣れな投資家が溺れないために、あらかじめ企業の特徴や全体像を整理し、IRサイトや情報の「泳ぎ方」を示すことである。昨今増えつつある「個人投資家向け情報」は、この類のものであるといえる。数多ある情報のなかから重要な情報や会社の特徴・強みを伝える情報を編集し、投資経験の浅いユーザーやはじめてのユーザーに配慮したコンテンツを作成し、会社の「鳥瞰図(概略)」を与える。これだけでも会社の姿を伝えることはできるし、関心を持ってもらったユーザーには、より詳細な情報へと段階的に誘導することもできる(ここから先は「水路」の問題だ)。

どちらにせよ、サイトや情報の構造をデザインし、情報をわかりやすくまとめ、伝えるための「編集力」が勝負となる。

「インターネット」・フェア・ディスクローズ

インターネットによるIR活動のおかげで、投資家間の「情報の非対称性」は急速に解消しつつある。従来は機関投資家向けに行われていた決算説明会の情報も、今やIRサイトを通じて誰でも入手できる。まさに「フェア・ディスクローズ」だ。

近頃はWeb技術の進展により、さまざまなタイプの情報が現われている。従来から存在するPDF形式に加え、ストリーミング(動画や音声配信)、Flash(電子ブックなど)などが活用されている。ところで、PDFを見るためにはAdobeリーダーなどが必要だ。動画やFlashにもプラグイン(閲覧ソフト)が必要だ。

では、(あまり考えられないが)これらの閲覧ソフトがないユーザーはどうなるのだろうか。また、操作が不得手で、そもそもウェブサイトを使いこなせないユーザーはどうなるだろうか。残念ながら、このようなユーザーはサイト上の情報にアクセスすることができない。フェア・ディスクローズを推進するIRサイトも、資料を掲載するだけでは、フェア・ディスクローズは完成していないのである。

ユーザーが多様化するなか、誰でも等しく同じ情報にアクセスできるような「アクセシブルな」IRサイトが必要だ。ウェブサイトのマナーという側面だけでなく、真の意味でのフェア・ディスクローズを実現するためにも、「ウェブ・アクセシビリティ」を徹底することが不可欠である。

究極の目的は企業の良さや特徴を伝えること

財務や決算の情報だけなら、金融ポータルサイトやオンライン証券会社の豊富な投資情報で事が足りる。それにもかかわらずIRサイトを開くユーザーは、「どんな会社なのか」「どんな将来性を持っている会社なのか」という期待を持って訪れる。情報を得ることもそうであるが、企業の雰囲気やイメージを得るために訪れる(それゆえ、情報がなかったり、使いにくかったりしたときは、企業イメージにさえ悪影響を及ぼすこともある)。情報の整理、編集とともに、財務や決算に偏らず、会社の強みや特徴、将来性といった定性的なコンテンツも重要となっている。

投資家がXBRL形式の財務データを活用できるようになれば、データの収集・加工・他社比較は容易になる。PDF資料や財務データのみを提供する従来型のIRサイトは、存在意義を失ってしまう可能性すらある。

以上のような考えから、ゴメスではIRサイトを「ウェブサイトの使いやすさ」「企業財務・決算情報の充実度」「経営組織・戦略情報の充実度」「きめこまかな情報開示」の4つの評価軸を用いて分析する。ただ単に情報があるだけではなく、アクセシブルで使いやすさも兼ね備えた、さまざまな側面からユーザーに配慮されたIRサイトこそが優秀なIRサイトであるという理念の下に―。