誰一人取り残さない:ウェブアクセシビリティの挑戦と展望

2023年10月16日

アクセシビリティとは?

インターネットの普及と企業におけるDX推進は、現代情報社会の象徴とも言える現象です。スマートフォンやPCを始めとする様々なデバイスを通じて、私たちは日常的に膨大な情報にアクセスしています。この情報アクセスの自由さは、ショッピング、ニュース、学び、金融からエンターテインメントまで私たちの生活を豊かにしています。

しかし、この情報溢れる時代において、すべての人が平等に情報にアクセスできているわけではありません。視覚や聴覚、運動機能に障害を持つ人々は、多くのウェブサイトやアプリケーションで情報へのアクセスが困難です。超高齢化社会に突入した日本においてはシニア層の方々も同じ状況でしょう。これは情報の平等性という観点から見ると大きな課題となっています。

Webアクセシビリティは、この課題に取り組むための重要なキーワードです。アクセシビリティを高めることで、障害を持つ人々も含めたすべての人が情報に平等にアクセスできる社会を目指すことができます。そして、この取り組みは、単に社会的な義務を果たすだけでなく、ビジネスの機会としても非常に価値があります。

Webアクセシビリティの意義

Webアクセシビリティは、表面的にはウェブサイトやアプリケーションが使いやすいことを指す言葉として捉えられがちです。しかし、その背後には、情報への平等なアクセス権という深い意味が込められています。

情報社会において、情報は権力であり、機会であり、自由であると言われています。情報にアクセスすることで、人々は新しい知識を得ることができ、自らの機会を広げ、自由に意思決定を行うことができます。しかし、障害を持つ人々にとって、情報へのアクセスは常に容易ではありません。視覚や聴覚の障害、運動機能の制約など、さまざまな障害によって、ウェブサイトやアプリケーションの利用が困難になることがあります。

このような状況は、情報の平等性を損なうものであり、社会全体としての課題となっています。Webアクセシビリティの取り組みは、この課題に対する解決策としての側面を持っています。アクセシビリティを高めることで、障害を持つ人々も含めたすべての人が情報に平等にアクセスできる社会を実現することが目指されています。

また、アクセシビリティの取り組みは、障害を持つ人々だけでなく、高齢者や外国語話者など、さまざまな背景を持つ人々にとってもメリットがあります。例えば、高齢者は視力や聴力の低下、操作の難しさなどの問題に直面することがありますが、アクセシビリティを考慮したデザインや機能は、これらの問題を軽減する助けとなります。

JIS X 8341-3:2016

JIS X 8341-3:2016は、ウェブコンテンツのアクセシビリティに関する日本の標準規格として制定されています。この規格は、障害を持つ人々がウェブコンテンツにアクセスしやすくするためのガイドラインを提供しています。具体的には、テキスト、画像、動画、音声などのコンテンツに対するアクセシビリティの要件や、ウェブサイトの構造やナビゲーションに関する要件などが含まれています。

情報通信技術の進化とともに、ウェブサイトやアプリケーションの利用が日常的になってきました。しかし、多くのウェブサイトは、障害を持つ人々にとってアクセスしにくいものとなっていました。このような背景から、ウェブコンテンツのアクセシビリティを向上させるためのガイドラインが求められるようになりました。

JIS X 8341-3:2016は、この要請に応える形で制定されました。この規格は、国際的なウェブアクセシビリティのガイドラインであるWCAG 2.0をベースにしており、日本の状況に合わせてアレンジされています。

アクセシビリティの実現方法とベストプラクティス

ウェブアクセシビリティの向上は、技術的な対応だけでなく、組織全体の取り組みとしての側面も持っています。
アクセシビリティの向上は、ウェブサイトやアプリケーションの設計段階から始めることが重要です。設計段階でアクセシビリティを考慮することで、後からの修正や改善の手間を減らすことができます。具体的には、ユーザーインターフェースのデザインやコンテンツの構造を、多様なユーザーが利用しやすい形にすることが求められます。

ウェブサイトやアプリケーションのアクセシビリティを確認するためには、実際のユーザーによるテストが不可欠です。特に、障害を持つユーザーによるユーザビリティテストは、アクセシビリティの問題点を明確にするための有効な手段となります。このようなテストを通じて、ウェブサイトやアプリケーションの利用における障壁や課題を明らかにし、それを解消するための改善策を検討することができます。

アクセシビリティの向上には、技術的な対応も欠かせません。具体的には、ウェブサイトのコードやデザイン、コンテンツの構造を、アクセシビリティのガイドラインに準拠した形にすることが求められます。例えば、画像には代替テキストを提供する、動画や音声コンテンツには字幕や音声解説を付与するなどの対応が考えられます。

また、ウェブサイトのナビゲーションや操作方法も、多様なユーザーが利用しやすい形にすることが重要です。具体的には、キーボード操作のみでの利用が可能な構造や、スクリーンリーダーとの互換性を持つデザインなどが求められます。

企業や組織における取り組みの事例紹介

ウェブアクセシビリティの取り組みは、多くの企業や組織で進められています。このセクションでは、アクセシビリティ向上のための具体的な取り組みを行っている企業や組織の事例を紹介します。

事例1: 大手IT企業のアクセシビリティ推進チーム

ある大手IT企業では、アクセシビリティの向上を目指して専門の推進チームを設置しています。このチームは、社内のウェブサイトやアプリケーションのアクセシビリティ評価を行い、問題点や改善策を提案しています。また、社員向けのアクセシビリティ研修やワークショップを定期的に開催し、社内全体の意識向上を図っています。

事例2: 公共機関のウェブサイトリニューアル

ある公共機関では、ウェブサイトのリニューアルを機に、アクセシビリティの向上を大きなテーマとして取り組んでいます。新しいウェブサイトでは、視覚障害者や高齢者など、さまざまなユーザーが利用しやすいデザインや構造が採用されています。また、ユーザビリティテストを実施し、実際のユーザーの声を取り入れた改善を行っています。

事例3: NPO団体の啓発活動

あるNPO団体では、ウェブアクセシビリティの啓発活動を行っています。この団体は、ウェブサイト制作者や運営者向けのセミナーやワークショップを開催し、アクセシビリティの重要性や具体的な取り組み方法を伝えています。また、障害を持つ人々とウェブサイト制作者との交流の場を提供し、双方の理解を深める活動も行っています。

アクセシビリティ向上のための今後の展望

ウェブアクセシビリティの取り組みは、これからもさらに進化し続けることが予想されます。
近年の技術の進化は、アクセシビリティの向上に大きな影響を与えています。例えば、AI技術や機械学習の発展により、自動的に画像の内容を説明する代替テキストを生成する技術や、音声認識技術を活用したサービスが増えてきました。これらの技術の進化により、障害を持つ人々のウェブ利用の障壁がさらに低くなることが期待されます。

ウェブアクセシビリティとユーザビリティは、異なる概念ではありますが、実際の取り組みにおいては密接に関連しています。今後は、これら二つの概念がさらに融合し、全てのユーザーにとって使いやすいウェブサイトやアプリケーションの開発が進められることが期待されます。

アクセシビリティの向上のためには、技術的な対応だけでなく、社会全体の意識の変革が必要です。ウェブサイト制作者や運営者、そして一般のユーザーに対するアクセシビリティの教育や啓発活動が、今後さらに重要となるでしょう。

ウェブアクセシビリティは、国や地域を超えた共通の課題として捉えられています。今後は、各国や地域が協力し合い、アクセシビリティの向上を共同で進める動きがさらに活発化することが期待されます。

今後の取り組みへの提言

ウェブアクセシビリティは、情報社会において誰もが平等に情報にアクセスする権利を実現するための重要な取り組みです。障害を持つ人々だけでなく、高齢者や技術に疎い人々など、多様なユーザーがウェブサイトやアプリケーションを利用するためには、アクセシビリティの向上が不可欠です。

JIS X 8341-3:2016は、ウェブアクセシビリティのガイドラインとして、多くの企業や組織において取り組みの指針となっています。このガイドラインの適用により、ウェブサイトやアプリケーションのアクセシビリティが向上し、多様なユーザーにとって使いやすい環境が実現されることが期待されます。それらは、組織全体の取り組みとして進めることが重要であり、経営層からのサポートや社員教育を徹底し、組織文化としてアクセシビリティの重要性を浸透させることが求められます。ユーザビリティテストやフィードバックの収集を通じて、ウェブサイトやアプリケーションの利用における課題を明らかにし、それを解消するための改善策を検討することも重要でしょう。

アクセシビリティの向上は、情報社会をより公平で包摂的なものにするための重要な取り組みです。今後もこの取り組みが進められ、誰もが情報に平等にアクセスできる社会が実現されることを期待しています。

当社がご提供するアクセシビリティ検証サービスもご参照ください。
→Webアクセシビリティレポートのご案内 -ユニバーサルデザインの実現に向けて